錦(にしき)の御旗ではなく、そっと知らせる物であれ。
夕べ、劇団の稽古の帰りの小田急線でのこと。
私が座った席の向かい側は優先席でした。そこにドドーンと乗り込んできた一人の初老の男性。彼は、とにかく横柄な態度で角の席を譲らせ、そしてペースメーカー手帳なる物をかざしては「携帯は切ったかね!私はペースメーカーを入れとるんだから、電源から切りなさい!これがわかるかね、ペースメーカー手帳だよ!ほら、早くさっさと切りなさい!」と誰彼かまわず威圧的に命令しまくります。
これは、実に正当な要求です。ペースメーカーの誤作動は、生命の危機につながる重大なものですから、自衛手段としては極めて大切なことではあります。ではありますが、この物言いはどうでしょう。
今朝、気になってネットで調べてみると、「携帯電話は埋め込み式のペースメーカーがある心臓部分からは、22センチ以上離して使用すること」となっていました。
ん?そうすると、角に座りたがった気持ちも分かってきます。彼の向きからすると、車両の間のしきりになっている側が左側、つまり心臓側になったのです。
ということは、万が一隣の人が携帯の電源を切り損ねていても、ペースメーカーまでは22センチ以上の距離が保たれるということになります。
「ほほう、なるほど」と感心しつつも、やはりあの男性の態度の印象としては不愉快さが残っています。
そして、ふと気づくと、私たち視覚障害者も、このおじさんと似たようなことをやってしまっているように思えてきます。
つまり、「障害者手帳さえ出せば、割引してもらえるのが当然の権利だ」といったような、ある種の傲慢さとでもいいましょうか。それは、障害者本人のみならず、介助者も含めて言える場合も多いようです。
あのおじさんも、そして私たちも、「イレギュラーな配慮をしてもらうこと」に対するありがたさやちょっと申し訳なく思う気持ちを忘れてはいけないと、「人の振りみて、我が振りを省みる」ような経験になりました。
そこで一つ考えたのですが、お互いにこんな嫌な想いをいちいちしなくてもすむように、ペースメーカー手帳や障害者手帳以外に簡単に識別できるような何かを身につけるということをすべきなんじゃないでしょうか。
最近よく耳にするグッズの中に『マタニティ・バッジ』という、妊婦さんであることを示すバッジがあります。これは、あるマークに「BABY in ME<ベイビーインミー>」と表記された物が入っているバッジです。これを上着やバッグなどにつけておくと、まだお腹の膨らみがめだたないけれどとても辛い思いをしている妊婦さんも回りに理解してもらえる機会が増え、座席を譲ってもらえたりできるという物です。
逆にいうと、このバッジを見かけたら、周りの人たちが積極的に気づいてあげられるようになるというわけです。
これに習って、ペースメーカーバッジなる物も作られるべきではないかと思ったのです。それを見たら、優先席付近にいるのに電源を入れっぱなしにしてしまうようなうっかりさんにも、「おっといけねぇ」と気づいてもらいやすくなるでしょうし、周りでも不快なやり取りを、目に、耳にせずに済むようになると思うのです。
同じく、障害の等級別で単独割引しか利かない障害者と、介助者も半額に割り引かれる等級の障害者の区別も、公営交通機関の乗降時に提示するパスの色を変えるなどして分かりやすくすれば、係員とのちょっとしたトラブルを減らせるのではないかと思います。コストがどの程度かかることなのかは分らないので無責任なことを言ってしまったかもしれませんが、これに気づいた時点で、私は都営地下鉄の駅長さんへ提案しておきました。
いずれにせよ、ハンディに気づいてもらいやすくすると同時に、手帳などを、権利、いや権威の象徴として『錦の御旗』よろしく振りかざすのではなく、「配慮されていることなのだ」ということを心の隅に置いてありがたくそれぞれの制度やサービスを利用させていただきたいものです。