食品サンプルとおままごと
「百聞は一触にしかず」の話の続きみたいになります。
先日、デリバリーのお寿司屋さんに行ったら、【ご自由にお持ち帰りください】と書かれた食品サンプルがあったとかで、うちの合方が『蟹イクラ丼』『甘エビイカ丼』と『煮帆立のにぎり』のサンプルを持って帰ってきました。 容器はまさにデリバリー用の発泡スチロールっぽい物でしたが、蓋はなし。恐る恐る触ってみると、何時間も置きっぱなしにして乾いちゃったみたいな感触の蟹とイクラがどっさり載ったご飯です。イクラは、本当にちょっとベタベタした感触なのに、離した指はさらりとしていて何も付いていないのです。要するに、触った感じも、見た感じ同様、かなり本物に近いイメージですが、明らかに作り物なのです。 でも、にぎり寿司とは違って、普段丼物には触らない(触れない?)ので、全体のレイアウトを直接的に把握できるこのサンプルは実に楽しいのです。そして、自分で盛り付けをするときの参考にもなります。
そういえば、ここ数年のアメディアフェアのときには、甲斐商店の甲斐さんが、様々な食品サンプルを展示してくださって、私たち視覚障害者の人に自由に触らせてくださっていますが、やはり人気がある企画の一つになっているようです。
ところで、先天性の視覚障害者の中には、お魚料理が苦手な人が多いようです。皆、お刺身は大好きなのに、特に焼き魚になると、嫌な顔をします。
それは、骨が邪魔で食べにくいというのが最大の原因になっているようなのです。
斯く言う私も、本当はお魚が大好きなのに、人前できれいに食べられないからという理由で、嫌いなふりをしていた時期がありました。
でも、これってそうとうつまらない理由だと思うのです。お魚はとても美味しいし、体にも良いのです。だから、なんとかして、素直に食べたいものです。
それには、まずそれぞれの魚の特徴を知る必要があります。比較的小さいお魚はそのままバリバリ食べられる物もあります。開きで焼いてある物は、左手の指でそっと端を押さえて、反対側の身をお箸で挟んで外側に引っ張ると、きれいに背骨から離れてくれて食べやすくなったりします。この食べ方で一番楽なのが、柳鰈(やなぎがれい)です。あまり生臭くないので、押さえるほうの指もそんなに臭いが付いたりしないし、身離れも良いのです。
また、一緒にいる人に、食べにくそうかどうか聞いてみて、これは手に負えないと判断したら、素直に選り分け作業をお願いしてしまうのもありだと思います。
こんなふうに、魚自体の構造を理解するのに、視覚障害児が遊びながら学習できるようなおもちゃがあれば良いと思います。一般に売れるかどうか判断は難しいのですが、20年以上前から小さな女の子たちの間で使われているおままごと『ままごとトントン』シリーズのように、食材が分解できて、またマジックテープでくっつけられるタイプの物の一つの形態として開発してもらって、盲学校の教材にするなど考えられないものでしょうか。お魚の身と骨が分けられるような物です。そうでなくても、布の絵本の製作ボランティアの人たちに協力してもらうなどして、同種のおもちゃ教材を作ってもらうと良いかもしれません。
また、盲学校の卒業学年の特別授業に『テーブルマナー』というのがありました。
これも、実際にお皿の上のお肉を切ったり、パラポロと細かいミックスベジタブルをフォークに載せたりして食べる前に、お皿の上のレイアウトを再現した食品サンプルを教材にして、しっかり触らせたり、粘土やウレタンなどでステーキの感触に近い素材を研究して、それをお皿の上で切る練習をさせたりしてみてはどうでしょうか。もったいなくない素材で何度も何度も繰り返し練習すれば、自力の食事範囲も広がると思うのです。
私はけっこう不器用な子だったので、お肉を切るのに夢中になっていると、付け合せのベジタブルがテーブルの上に集団移動していたりして、大分苦労したものです。
今では、かなりましな食べ方ができるようになり、ハンバーグのように切りやすい物はしっかり自力でいただきますが、ステーキやソテーなどは一緒に食事している人をはらはらさせないように、お願いして一口大に切ってもらうことが多いです。
このように、「百聞は一触にしかず」は何事においても生かされることです。直接触ってはいけない物を視覚障害児に理解・習得させるには、そういった工夫をどんどん取り入れていくことが大事だと思っています。
などということをつらつら考えながら触って遊んでいたお寿司屋さんのサンプルは、押入れの天袋の敷居にひっかけて飾っておくことにしました。あまり手の届くところにあると、お腹が空いてしかたがありませんから。(笑)